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おかゆのしあわせ/2017初夏

ココルームの上田假奈代さんから、「おかゆのしあわせ」をまた開催して欲しいという声がある、と言われて、今年はぜひ季節毎にやらせて欲しいとお願いした。
参加する人々と一緒に、1年を巡ってみたいと、思ったのだ。

去年の秋は、とにかくいろいろ試して欲しくて、5種類のおかゆを用意したけれど、今年は3種類にしようと思った。

ひとつは、日常のしあわせに、接続していくもの。
ひとつは、非日常のしあわせを、味わうもの。
ひとつは、遊び心を、楽しむもの。

開催日は6月1日。
これから梅雨に入り、その後、暑い夏がやってくる。
湿度も気温もあがり、食欲もなくなってくる。

そんな時期に、私だったらどんなおかゆを食べたいかなと考える。

さらさらしたおかゆがいいな。
汗をかくから、ミネラルが欲しくなるだろうな。
食欲がなくても食べやすいように、旨味を感じられるといいよね。
目にも香りにも、爽やかさを感じたい。

去年、假奈代さんから釜ヶ崎芸術大学で、やわらか料理のワークショップをやって欲しいと言われて、辿り着いたのがおかゆ。
炊飯器と米なら、ほとんどの人が持っているから。
そして、手間なくできることが大事。

水出しの昆布だしを使って、お塩をちょっといれて、炊飯器でおかゆを炊くといいんじゃないかと思った。
昆布を入れたボトルに水を入れておけばよい、昆布だし。
だしをとる、と思うと面倒だなと思うかも知れないけど、これなら簡単。

昆布には、ミネラルがたくさん含まれているし、薬膳的には身体を冷ます働きもあり、これからの時期にはぴったり。
薬味には、茗荷、新しょうが、実山椒など、まさに旬のものを。身体の中の湿気を飛ばしてくれる。
実山椒は、下処理がいるから難しくても、茗荷やしょうがなら、切るだけだから。
そして、水なす。ちょっとお高いけれど、関西ではこの季節ならではのもの。

日常のしあわせにつながるもの、は「昆布だしがゆの旬の香味野菜のせ」に決まった。

非日常のしあわせを感じるものには「鮎がゆ」を選んだ。
鮎の塩焼きは、やっぱりこれから夏にかけてのごちそうという感がある。贅沢なもの。
そのごちそうが、おかゆになったら、おかゆが一気に贅沢な一品になるんじゃないかと。
おかゆの具材にするなら、ひとり1尾用意しなくても、十分だし。

そして、遊び心を楽しむもの。
できれば、ココルームの庭に生えているものを、その場で収穫して、つくりたいと思った。
ままごと遊びみたいに。
かなよさんに、今つかえるものを聞くと、ローズマリーとミントかなあ、と。
おかゆには、なかなか距離がある。
目を閉じて、ココルームの庭の景色を思い出す。
あ、蓮があったんじゃないかな。
聞くと、まさに、蓮の葉はぐんぐんと大きくなっているところという。
しかも、北京に、蓮の葉がゆというものがあることがわかった。
蓮の爽やかな香りを楽しむ、甘いかゆ。
文人が好んだ、風流な料理という。
そうして、最後のひとつは「蓮の葉がゆ」になった。

3種のおかゆメニューを用意して臨んだ当日。
9名の方が参加してくださった。
前回に引き続き参加してくれた方。
警官やらいろいろな人に道を尋ねながら、はじめてココルームにやってきたという方。
ありがたい。

おかゆは、米の5倍くらいの水で炊くと、重湯のない全がゆ、10倍くらいの水で炊くと、重湯まじりの10倍がゆ。
水の量は、自分がどんなおかゆが食べたいかで、決めたら良い。
米と水だけでシンプルだから、何かを入れたり、混ぜたり、トッピングしたり、いろんな変化がつくれるよね。
おかゆという料理と私なりに向き合ってみて、実感している自由さとか、広がりについて話してみる。

早速、つくりはじめる。

まずは、炊飯器におまかせの昆布だしがゆの準備から。
昨晩から水出ししておいた昆布だしを見て「ほんとうに水に入れておいただけでこんなにだしがでるの?」と驚いている。
「これは、食欲のない時にこそ、おすすめのおかゆだから、少しサラサラな感じ、10倍がゆくらいにしてみましょうか」。
炊飯釜のメモリを使わずに、カップで昆布だしをはかっていれていく。
8倍くらいいれたところで、かなり水位が高くなってしまったので、このくらいにしておきましょう、と止める。
いつも、そんな予想外。

鮎がゆは、これまでやってみたら、7倍くらいがちょうどよかったの、蓮の葉がゆは、涼しげにしたいから10倍にしてみましょう、と水加減を決めて、土鍋を火にかける。

土鍋の蓋を持って、みんなで庭にでる。
土鍋の蓋より少し大きいサイズの、蓮の葉を採りに。
前日、試しに蓮の葉を煮出してみたら、それほど香りも色もでないので、いろいろ調べてみたら、若葉ではない年季の入った葉のほうがよいみたい、と伝える。
若葉ばかりの中から、年季の入った「風」の葉を摘み取り、土鍋にかぶせて蓋をする。

鮎も焼く。
最初の1尾は私が串を打ったけれど、残りは挑戦してみたい人が交互にやることになる。
できないこと、は一度でもやってみると、できること、になる。
「鮎の串打ち」が、できること、になって、みんな嬉しそうだ。
前日、炭火で焼けたら最高だよね、と假奈代さんに言ったら、スタッフの方が七輪に火を起こしてくれた。
誰かが、「釜ヶ崎で鮎を焼くなんて、歴史上初めてなんじゃないか」と言い、みんながどっと笑う。
漂いはじめた良い匂いに、みんなでうっとりする。
焼き上がった鮎の骨抜きも、なかなかうまくいかないけど、みんなで盛り上がる。

炊きあがりを待ちながら、香味野菜を準備する。
特に手早いというわけでもない私の包丁さばきを見て、切りましょうかと言ってくれる方がいる。
気づいたら、参加型の料理教室になっている。
私が不完全だからこそ、生まれる機会もあるのかな、と思えてしまうのも、釜ヶ崎という場所の包容力なのかも知れない。

できあがったおかゆを囲んだテーブルは、とてもなごやかで、なんだか私も嬉しくなる。
このおかゆの時間を、どうにも暑い夏の日や、ささやかな贅沢をしたい日や、ふと遊んでみたくなった日に思い出してもらえるといいな。

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釜ヶ崎芸術大学「おかゆのしあわせ」
日時:2017年6月1日(木)13:00〜15:00
会場:ココルーム

※写真はすべてココルーム