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六本木の森

すごい人に出会った。
森の案内人、三浦豊さん。

http://www.niwatomori.com

一昨日の晩、どうして森の案内人になったのか、というトークイベントに参加し、昨日の朝は早速、六本木の「森」を実際に案内してもらうツアーに参加した。

森の語源は「盛り」。
多様の種類の樹々が、自然に生い茂っていることを森という。
そういう意味では、人が植えたのではなく、自然に生えてきたものは、すべて森の始まりと言える。

まずはミッドタウン周囲の路地を歩く。
以下は、三浦さんの言葉を、書き留めたもの。

斑入りのアイビーは、斑がある分、光合成の効率が悪い、変性種。
でも、江戸の人々が美を見出した。その白が狭い路地を明るくしてくれる。
斑入りを愛でるのは日本特有の美意識。

植栽の手前の南天とフェンスの際の南天。
生えている場所で、植えたのか、生えたのかわかる。
人間は境界線の際に植物を植えたりしない。

アカメガシワは、草の次に生えてくる樹。
庭師から見れば、荒れている象徴。でも森の案内人として見れば、森の始まり。

椋(むく)はもともと東京に自生していた樹。小さい樹がたくさん。50年毎くらいの洪水を好む。適度に栄養が流された土が競争相手もおらず生きやすい。

今は巨大に見えるヒマラヤスギも、もし東京が森に戻って行く時には、自生していた樹に淘汰されてしまう。
生まれた土でなければ、うまく子孫を増やせない。

椋と伊呂波紅葉(いろはもみじ)は相性がいい。どちらも東京に自生していた樹。
上に伸びる椋と、横に広がる伊呂波紅葉。紅葉は木漏れ日が好きだから丁度いい。

3枚葉の葛と5枚葉の藪枯らしも森の始まりの最強コンビ。
葛の根は人間の脚の太さくらいある。だからいくら切ってもまた生えてくる。

日本の樹々は比較的協調性があるけれど、葛などのつる性の樹は別。
自分の幹で自立することを放棄した樹は、木質化することを捨てて、圧倒的な伸びを手に入れる。

榎(えのき)もものすごく大きくなる樹。榎茸ができる樹。
庭師は有無を言わさず切る樹だけれど、植栽の中でひっそりと育っている。

藤の種は、まさにモロッコインゲンのよう。
それが乾きながらねじれて、その反動を使って、時速130kmの勢いで種を飛ばす。
どの植物も方法は違っても、できるだけ遠くに子孫を残そうとする。まずは自分の生存を維持するために。

欅は硬い樹。樹形が美しい。美しいさまを表現する「けやけし」という言葉から来ていると言われる。
拳を打ち付けたような木肌は、カビやコケが生えると剥がれる。綺麗好き。

檜町公園に入る。

日本庭園は、座視鑑賞式と回遊式、どちらも兼ね備えた素晴らしい庭園。

座ってみると、入り組んだ池の形が奥行きを感じさせる。見え隠れが大事。
正面の奥にある滝から水音が響いてくるのは、水の落ちる面が太鼓様になっているから。

歩き始めると、20歩で景色が変わる。
紫陽花やカキツバタは、水が多い場所に合う植物。

満天星躑躅(どうだんつつじ)は、庭園によく植えられるが、実は自生地が少ない樹。
あまり大きくならず視線を遮らない、四季の移ろいが豊かであることから、よく使われる。
よく使われる樹には、やはり理由がある。

紫陽花は、もともとは陰気の代表のような花。
死者に手向ける花でもあった。
枝を土に挿せば、どんどん増えることから、江戸でも人気が出なかった。
戦後になってから、梅雨どきの観光ネタとして、人気が出た。

花の木も、自生地が限られる樹。
レアな樹も含め、植えられている樹の7割が日本に自生する樹。

庭園を歩いていくと、少しずつ川が上流に近づいて、ついには源流にたどり着く。
見た目だけではなく、水音も少しずつ変わっていくように、注意深く岩が配置されている。

庭園とは大自然の縮景であり、庭師の腕が上がれば上がるほど、手を入れていても、手が入っていないように見える。

檜町公園を出て、氷川神社に向かう。

街路樹の欅は、根元を支柱で支えられている。
植えられて最初の数年は支柱が必要だけれども、支柱があるままだと、自分で支えようと根をしっかり張らなくなる。
幹が硬いので万一倒れた時の被害を考えてのことだろうけれど、悩ましいところ。

銀杏は、水分を多く含む。昔は大火での延焼を防ぐために、植えられた。
日本の街路樹の本数では第一位。

氷川神社に着く。
900年代にでき、1760年に現在の場所に移る。
六本木の鎮守の森。

神社など神聖な場所では、殺生が避けられることにより、樹が残る。
榧(かや)は東京に自生していた樹だが、材が良いため、みんな切られてしまった。
軽く、白く、水に強く、と求められる特質を兼ね備えている。
鎮守の森だからこそ、守られてここにある。

今日、何度も出会った桜。
桜は日が当たらないと生きていけない。
鳥に遠くまで種を運ばせる一方で、根を浅く広げひこばえを出す。
34度を超えると、ひこばえが成長していく。生存のための保険のようなもの。
本来はそうやって、動き回る樹。

境内の銀杏の巨木。樹齢400年ほど。
銀杏は恐竜がいた時代からある樹で、生きる化石と言われる。
神社がある台地は、神様のいる場所としてもふさわしいし、樹木の生育にとっても良い場所。

そして、向かいにある椎。
椎の実はナッツのようでとても美味しく、飢饉の時には人々の間で分けられた。
椎が生えると、もうどの樹も勝てない。
そこが素晴らしい土地であることの証。

2時間の六本木散策で、これだけの樹々との出会い。
三浦さんが、初めて森に出会ったのは、東京の街中なのだと言う。

そう、私も確かに、東京で森に出会った。